家計簿と戦場
吉田ぐんじょう

ミサイルが発射される音が聞こえる
母が
台所で家計簿をつけているのである

インキは戦車のキャタピラのように
勇ましく前線を進み
赤い数字が攻撃目標みたいに
点々と書き込まれてゆく
エプロン色の背中が
荒涼とした草原のようだ
硝煙のにおいが漂って

わたしはなるべく静かに歩いた
つもりだったのだが
どうやらその足音が
戦場に影響を与えてしまったらしい

母は
作戦を告げる上官のような顔で
おごそかに振り向くと
節制
と呟いて
わたしにペンを突きつけた
銃剣のように光る
黒と赤の二色ボールペン

小さい兵隊たちが
レシートの合間に隠れて
こちらをそっと窺っている


自由詩 家計簿と戦場 Copyright 吉田ぐんじょう 2006-12-12 17:17:48
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