アルシュレッタ
松本 卓也

遠い遠い視線の先に
キラキラと煌いている
風の瞬きが視界を掠める

正体を掴み取ろうと
近づいて行くたびに
彼方へ彼方へ遠ざかっていく
形而上の産物を目にして
それをアルシュレッタと名づけた

定義付けを行ってみるけど
喩えるなら捨てられた子猫のように寂しく
喩えるなら月のように輝いて
口にする事すら恐れ多く感じた

宝石のように光っていて
紙幣のように薄汚く
夢のように実態がなくて
現実のように息苦しい

眺めていれば分かるけれど
空虚に奏でられるメロディが
幾重ものオーギュメントを繋げて
一つの賛美歌を作っているように

失われた想像の産物さえ
まるで無意味なものに変えていく

アルシュレッタ
それは美しい笑顔のようで
醜い嫉妬にもよく似ている

幻覚に戸惑う夜を映し出すたび
思い出したくも無い愛を手紙から読み取る
存在さえもはや無縁となったというのに
それは彼方よりも遥かな記憶の中で
在りし日の恋の調べを思い出させるだけ

例えば米軍の居座る軍港から
かつて英雄が布武を唱えた場所へ
届かせようと願う声こそ相応しい

少なくとも忘れない間は見える
最悪でも思い続ける内は聞こえる
極めて限定された僕の耳と君の心に
募る後悔を指し示すアルシュレッタ


自由詩 アルシュレッタ Copyright 松本 卓也 2006-12-11 21:07:58
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