残毀 
月夜野

  同じ一つのものを                   
  別々の名前で呼んだ咎によって           
  罪なき多くの血が贖罪の地に流され        
  同じ一つの光によって                 
  救われるべき人の命が                
  無残にも損なわれ                   
  世界はそれぞれの呼び名に拠って           
  なおも孤立している
                  

  かつてメコンを流れたものが             
  いまは火薬の臭いのする
  街の瓦礫の上に       
  あるいは下に
  折り重なり膨れ上がり
  臓物さえも晒して
  男でも女でもない
  ただの叫びの形をなして
  熱風に焼かれている


  苦痛に喘いだ命の極みは
  空しい祈りの余韻にも似て――


  鳥たちの通う空にないものが
  この地上にはあって
  獣たちの王国にあるものが
  この地上の王国には失われているのだった
  命の最も奥まった場所にしまわれた
  いたいけな蕾さえも犯し続ける
  罪とも知らず


  弔いの鐘が鳴り響く朝
  一人として贖う者なく
  ただ鉛の錘を両肩に背負い
  光の名前を唱えながら
  栄光と呼ばれる病に罹患した人群れは
  どこにも到達しえない行軍を続けるのだ
  世界が縫い閉じられる
  その日まで




自由詩 残毀  Copyright 月夜野 2006-12-11 19:23:30
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