十二月、中学校のある町
佐野みお

かすかな破裂音を立てて
冬眠中期の蜥蜴の夢は中断し
ブロック塀の上に捨て置かれた
白いビニール手袋が
道行く人を時折驚かせる

ゼラチンあるいはグミ状のものが
生成するのはまだ先のこと
氷点間際の地層に根を張る
桜の樹液がゆっくりと巡る

どこかで今ヒトの子が産まれたらしい
ある部屋で飲みかけのコーヒーが冷めてゆく

冬眠中期の亀の甲羅の上のほう
池の面に薄い雲の影が映り
水面に浮かぶ桜の枯葉が翳る
校舎をはさんで池とは反対側にある
誰もいない運動場で
小さな低気圧が発生しようとしている

よくよく耳をすませば
受話器がひと晩上がりっぱなしの電話機が
発信音を放ち続けているのが聞こえるだろう

止まっている、と呟く者がいる


自由詩 十二月、中学校のある町 Copyright 佐野みお 2006-12-10 21:00:54
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