分裂の旅
あおば

部屋の隅で金を拾い
北海道にスキーにゆく
大きな河の中で溺れるのは
明日の昼過ぎだろう

隣の猫の眼にも百年前の
魚が泳いでいるのが見える

俺の顔も猫になって
阿武隈川の清流で溺れた
左眼にガラスをはめて
右目には粘土をつめて
百年後にはなにを見る
千年後にはなにを見る
一年前には太陽の塊を丸め
つめていたが、盗まれて
空になっていたのだ

空の眼には暗闇が棲む
旧人類の歴史が記録され
CDにして売られている
今日もカーステレオを聴きながら
私の車は走っていく、音もなく
姿もなく、横断歩道の前で
小学生の集団が通り過ぎるのを
エンジンを吹かして待っている









作2000/02/15
初出、「ミュウ」投稿掲示板
掲載Vol.112


自由詩 分裂の旅 Copyright あおば 2006-12-10 16:39:54
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