先住民の故郷
小房 嘉納子



おとうさんとおかあさんに子どもが生まれ
子どもは幼稚園に行って中学生になって高校を卒業して
しばらくして妊娠しました
おとうさんとおかあさんと子どもは
さらにおとうさん2とおかあさん2と子どもになりました

一度も家を出なかった子どもは
おとうさんとおかあさんのすぐそばで暮らし
週に何度も食事をしに帰り
おとうさんとおかあさんは子どもが
おとうさんとおかあさんになった姿をみて
かいがいしく世話を焼くのでした
中には
いつでも帰ることの出来る隣町にて
一人暮らしを始める先住民たちもいて
「一人暮らしが夢だったの」と
夢見るように言いました


それらの何が嬉しいのかわからぬ娘は
先住民たちの中にも数人居て
おとうさんとおかあさんのそばを離れたくて
家を出ました

そして先住民たちを
箱の中に自らを拘束し息苦しくないのだろうかと遠く眺め
故郷を吐き捨てるように恥であると考える
こんな島国のさらに鎖国の町
己が何者であるかということなど
微塵も気にしない者の集まり
依存と妥協と馴れ合いと避妊の仕方も知らぬ
芸術のかけらも見つけず町の色にのみ染まり
以降外の者を寄せ付けずさらに子どもを作る
後に余所から来た者とは一筋の道を挟んで
完全な境界が出来ているではないか

それらは美しさを見出すにはほど遠い集団に思えるのだった

しかし
果たしてそれはそうだったのか、と
先住民の娘は考える

綿々と受け継がれるその生き方こそが
当たり前の美だったのではないか
親のそばで親に守られいつしか親を守る
若くに子を作り育て働き
地を守り地に生きる

恐らくそれが
正しい先住民の生き方だった


故郷を恥じた娘は年を取り
それでも故郷に馴染めないままさらに年を取るでしょう
かつて先住民だったその恥の土地に
どの面さげて戻れるだろうか
未だ己が何者であるかなど
地に足着かぬ彼女らには到底わからぬことで
それでも
間違っていなかったという確信が彼女らにはありました

さらに年を取った親や微細な血の関係の諸々
手に取って味見し喰らう日が必ずやって来る
消化し踏みしめて受け継ぐ日から
逃れられるものではない
今思えば
懐かしくないこともない


西を向くと
遠くから故郷の声が聞こえてきます
その中に
新たな先住民たちの根付く音が
じらじらと低く混じり続けています















自由詩 先住民の故郷 Copyright 小房 嘉納子 2006-12-09 20:08:38
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