天井のおばけちゃん
渦巻二三五
天井をなめるおばけちゃん
昼間は天井をなめている
四角い天井をまるくなめて
部屋の中のできごとなんてなんにも見ちゃいない
おばけちゃんの舌は腫れあがって
口のなかにはおさまらないから
いつだってべろんべろん
枕元の小さな灯りで本を読んでいると
待ちきれないおばけちゃんのよだれが
ぽたりぽたりそしてぽたりまたぽたり
それでだんだん眠くなる
雨の夜はとくに。
灯りを消すとたちまち降りてきて
ふわふわとのびをするおばけちゃん
おばけちゃんのいない天井はさびしいから
夜の天井はとても
からっぽ
手をのばしてものばしても
肩が寒いだけ
寝返りを打てば背中にいるおばけちゃん
ふくれた舌を畳で冷やしている
さりさり壁をこすっても
ふりむいてやらない
ときどき夜中に目が覚める
おばけちゃんをふんづけてトイレに行く
天井は見ない
静かすぎて目覚めた朝は
やっぱり雪で
天井は留守でした。
初出:一九九九年 一二月二三日 @nifty 現代詩フォーラム