夜道を裸足で
麻生瑞乃

音はすれども、姿は見えず。

さっきから、衣擦れの音がします。

ここへ、戻っておいで、
わたくしとおんなじ幼い心をもった、

一番透明で
最も賢い

盲目の少女。


 音の無い世界を歩いてきたの
 森の暗闇の中
 静かに歩いてきたの。
 体で音を聴いてるの
 わたしがこの世界に
 居てもいいか訊ねるように、
 気配を消して
 歩いてきたの。
 音が鳴るから
 靴は脱いできた。

 わたしの裸足のあしの裏から
 音が聴こえるのよ。
 大地の音がするの。

 ヅックン… ヅックン… ヅックンっ
 ・・・・・て、
 本当は、わたしの心臓の音なのよ。

冷たく凍った大地に耳を擦り付けて
わたくしは盲目の少女を尋ねるように、同じく凍った耳を澄ます。

戻っておいで、
こっちへ、
戻っておいで。

音はすれども、姿は見えず。

森の夜道は沈黙。
我に語りかける無かれ。

 


自由詩 夜道を裸足で Copyright 麻生瑞乃 2006-12-07 04:31:47
notebook Home 戻る