アリクイは何処だ
士狼(銀)

アリクイが逆転サヨナラ満塁ホームランを打つ
そんな夢を見た
飛び起きて冬の早朝に町へと繰り出す
目覚めた僕は豚になった気分で震えていたのだ

廃れ逝く町で
々、ような毎日で
退屈な僕は小指を噛む
仔犬みたいな人ね
蜘蛛が寒波に呑まれながら
罠を繕って笑う
アリクイを食べたことはあるか
夢の話をすると
蜘蛛は空に帰ってしまった
退屈な僕は仔犬みたいに小指を噛む
噛み千切れるかい
ごみ箱から音が顔を出す
煙草が揺らぐ度に音域を失くす六時の音楽は
まぬけな旋律で古ぼけた山を包む
アリクイに会ったことはあるか
夢の話をすると
音が散っていってしまった
退屈な僕は仔犬みたいに噛み千切ろうと小指を噛む
アリクイは何処だ
未来は何だ
保証された未来の魅力より退屈な現在が辛い
規則的な時間の骨が露出する前に
僕はアリクイとキャッチボールがしたい
骨の白さに気付く前に
小指を噛み千切ってしまえたら
そこから何か面白い赤が始まるかもしれない
普通が大事だと気付いて
未来を希望して
現在に縛られるのが嬉しくなって
過去を吐露して泣いて
生かされていることに少しだけ触れたらいいかもしれない
臨終間近の友情に
いざ終止符を打ってしまって
その生命を粉々にバラした後の血が滲む顔で
大した事ないねって笑ってやりたい
僕の小指が何事もない町の々、ような毎日で
腐っていくのが
見たい

僕の町にはアリクイは何処にもいなかったから
炬燵で蜜柑を食べようと思う


自由詩 アリクイは何処だ Copyright 士狼(銀) 2006-12-06 01:08:22
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