夜想
松本 卓也

雲が空を覆う
星はかけらすら見せず
唸る風が耳元で囁いている

心を空虚が支配する
何も無いように見えるけど
目を凝らしてみれば
底にある笑顔が見える

忘れていたはずの
覚えていたはずの
時を経ても変わらない
硬直した微笑が

かつて全ての希望を抱いて
安らぎを与えてくれていた
何時の日か片隅に刻まれた印が
僕を過去に押し留めている

涙にぼやけながら
記憶に霞みながら
時折鮮明となるその姿に
何度となく打ちのめされていく

辿っても見えない痕跡
一度は断ち切った糸を
無意識で引っ張っていく内に

結局は昔と同じ顔で
草臥れて泣いている自分の
影を踏みしめている事に気付くだけ

不毛なやり取りに零した溜息
何度も何日も何月も何年も
君と言う幻想が与えてくれた神話に
もう一度抱かれる日を夢見ているから

無駄を積み重ねて
似た笑顔に失望し
同じ言葉を投げかけられ
夢の続きを探し続け

いつか夢想の果てに垣間見た
安らかな夜をもう一度だけ感じたい
君が与えてくれたものと同じような
君が与えてくれたものとは違った
温もりを抱いていたいだけで

今日探した答えは
明朝に見つかるなどありえない
だけど枯れ散った紅葉の舞う夜空に
思い浮かべるのはいつも君の解体図だった

何が与えられていたのか
そんな事は重要では無くなった
これから何を与えてくれるのか
大切な事はそれだけで

月が差し伸べる白い指先に触れ
もう一度夢に誘ってくれますようにと
願いを込めた言葉を中空に投げ放つ

かつて見た君と違う顔の君が
再び頬を寄せてくれるように
手を伸ばし月に触れ星を撫で
夜風に乗せた想いよ
彼方まで響け


自由詩 夜想 Copyright 松本 卓也 2006-12-04 01:30:24
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