レインミュージックはマホガニーの薄明で
たちばなまこと

マホガニーは薄明で 薄命の夜を始める
教室の窓から身を乗り出していたら
まさにいま
夢中で描いている赤い紫のペイズリーが
絨毯が
迎えに来ないかしら、と よぎる
若者よりもはしゃぐ現在進行中の記憶ではいつも
幻想ばかり食べている
地上から山の中腹までに登るグラデーションの光が
家々のあたたかさのパワーで霧雨にあわいハイライトを描いていた
私が立つこの教室も 私が持つ瞳の光も
こんなあたたかさを放っては届いているのだろうか
私のような誰かに
あのマンションの7階あたりではその誰かが
左手のかぎかっこをつくって捉えていたりするのだろうか
また気付くのに遅れた雨が 夜の始まりの屋根をたたく(低音のティンパニー)
この夜雨もクラシックミュージックに出来るのかな
私は奏でるよりも先に描いてみたくなる


藻岩山の輪郭は山頂で絵の具の混色の境界を真似て夜の始まりの宇宙(そら)へまじえ溶けてゆく


私という愛が芽生えた霧の街の夜を思い出して
かえれない真夏のようなからだを思い出して
10年も前には自転車で すっぴんで
ペダルを次から次へと踏みおろしていたのにね
こんなにも真夜に近い教室にいる、なんてことが
描ききれなかったまた一つの世界を捉えて血液をまぜる
せんせい…なんて、呼ばれ慣れやしない内に
私は窓の外へ
あのあわいハイライトの中へ
赤い紫のペイズリーに乗って 浮き旅立とうとしている
マホガニーに溶かした赤紫は多すぎた水分でマーブルになった
濡れ滲む始まったばかりの夜で無意識の背泳ぎをして
生まれ始めた力を 空回りのはしゃぎ方で行使していた



自由詩 レインミュージックはマホガニーの薄明で Copyright たちばなまこと 2006-12-03 09:45:00
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