スーパーノヴァ
水町綜助

窓際に
置かれた
書棚

その窓はすりガラスで
鉄線が格子状にガラスの中に張り巡らされている窓で
北側の壁にはめ込まれている

僕の腰ぐらいの高さの書棚の上には

郵便物用の小さな秤 小さな籠 オイルの缶 透明の空き瓶

なんかが適当に置かれていて
窓は北側だから日差しは薄い筈だけれど
ちょうど路地を挟んだ向かいのビルが真っ白なので
照り返しが窓一面を白く光らせていて
それで秤も籠も缶も瓶も輪郭をあいまいにほの白くぼかしていた

あいまいな輪郭
ガラスの瓶なんかは透き通っているから
丸ごと透き通っているから
窓の格子模様を透かしている



だからなんだ

なんでもない



そんな理由のない意味もないことを
その風景と静物を
ぐしゃぐしゃと丸めて耳の穴から頭の中に放り込む
入りきらなければ食べて
脳漿に浸してスープにしてかなり甘いそのスープで僕はグラリと傾き
そして詠唱をはじめる


ライムグリーンの太陽頬っぺたに乗っかりその頬っぺたは僕のだったか君のものだったかまたは君のものになった僕のものだったか僕はぐるぐると回るその太陽を背にしてそうして回っているうちに老人の声が聞こえてくる「ソーマを使ったことは余りありませか?」とその声は滝となって渋谷の路地裏の緩やかな坂道を登る君に降り注ぐ僕が代わりにそれに答える「下戸なんです」答えたあと声のした方角をみやると奇怪で巨大なトンボみたいな電信柱無数に走り絡みつくコードあれは変電器か化け物トンボは羽であるコードを大きく広げその羽はどうやら世界の果てまでも伸びてる錯覚僕たちはその上を音もなく百二十マイルで進む今度は先週の土曜日に乗ったタクシー運転手の禿げたおっさんの声「どこまで乗っていかれますか?」君は寝言を言う「クレタ島まで」僕はため息をひとつ「心臓まで」それは昨日までという意味僕は君の心臓に君の昨日に行きたいんです道順をおしえて

夜は走り続ける
規則正しく並ぶ街灯が流星のように流れ飛ぶ

僕はそのさなかで何度か勝ち鬨の声をあげる

ちぎれ飛びそうになるからだどこ吹く風と静まりきった世界うわのそらほら僕はここにいますよだからいってるだろう君に悲しいことが起こったとき急に土砂降りになったり僕にうれしいことが起こったとき雲が切れて晴れ間が覗いたりすることはまったくまったく関係のないことなんだよそれよりみてごらんなだらかな丘の上をそこに机を置いてなにかをいじくりまわしている奴がいるほらもっと近くへ寄って太陽が出ているからわかるだろう?きみがちいさなころに書いたクレヨンの太陽だへたくそないびつなトゲを八方にとがらせた太陽だそいつの下であいつはなにをしてる?あれは文字だ何かをいじくりまわしていたその何かは亀の甲羅でそこにそいつは石の楔を握りしめて象形文字を彫っているんだそいつはそれでそこにかかれた言葉で世界の面倒ごとすべてを解決できると信じ込んでるんだばかだねただただ丘の上って言うのは日当たりがいいと言うだけなのにねまあいいやさあさあそこに彫られている文字を読んでみろきっとそれはガリガリとひっかき傷のような音で発音されるだろうなにせ石の楔ださあちいさくつぶやくだけでいいんだ
ほら声に出して読んでみろ!








































やさしさ

































翌日世界は爆発し

夏と冬だけが残った



自由詩 スーパーノヴァ Copyright 水町綜助 2006-12-02 20:39:54
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