脱皮のススメ
琉碧 翡翠

よく晴れた土曜日の午後、椅子に座って読書をしていたら、ふと首筋に違和感を感じた。

不思議に思い手をやると、どうやら脱皮が始まったらしいのだ。

常に空調のきいた部屋の中では、体内時計が狂ってしまったらしい。
全く、こんな時期に脱皮なんてたまったもんじゃぁないよ。
そう思いながら私は慌てて服を脱いだ。

前に一度服を脱がずに脱皮したら、それは大変なことになったもんだからね(そうそう、靴下を脱ぐのも忘れてはいけない)。

全裸になった私は椅子の前に立ち(こうしておくと古い皮が椅子の上に落ちる)、首筋に手をやるとそっと古い皮を剥がしていった。
弱くて敏感な新しい皮膚が外気に触れて、甘い痛みと疼きを脳にもたらす。



…そう、カサブタを剥がすような感覚に良く似ている。



やがて古い皮を脱ぎ去り脱皮が終わると、あることに気が付いた。

どうやら、古い皮から出てきた新しい私も、私であることに違いはないらしい。
でもそれは、今までの私とはやはり少し違うような気もするのだ。

私であるような、私ではないような新しい私は、椅子に大人しく座っている古い私の皮をムシャムシャと食べ尽くし(あまり美味しいモノではないね)、元通り服を着ると玄関のドアを開けて出て行ってしまった。



やれやれ、脱皮とは全く面倒臭いモノだとは思わないかい?


自由詩 脱皮のススメ Copyright 琉碧 翡翠 2006-11-30 15:37:35
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