一羽のカモメ
杉菜 晃

カモメは海沿いの線路上を飛んでいる
超低空で
軌道をいささかも外れることなく


線路は間もなく
海を逸れて山間へ入る
線路に添うか
海に添うか
カモメにとっての岐路だ


カモメは海と別れて線路を選んだ
 
(いられなくなったのかもしれない)



海を離れて
内陸へと向かうカモメは
都市を離れて
誰もいない海へやって来る人のように
寂しい
仲間と別れて海を出て行くカモメ
都市へ行くカモメ


私はカメラ片手に
シーズンオフの海辺に
そんなカモメを追った


一度海岸線をそれた鉄路は
限りなく海を離れていく
またたくうちに海は視界から消え
潮騒は失せる
カモメは内陸へ飛ぶ
線路の導くままに
線路を離れては生きられないかのように
枕木の上に翼の影を落として
飛んでいく


あのカモメはどこへ行くのだろう
線路の終着先は大都市だ


海を離れていく一羽のカモメは
誰もいない海に
ひとりでやって来る人のように
寂しい


都市で鴉にまじって生きるのか
それは夢の夢にすぎないくらいは
充分知っていよう
では線路上を飛びながら
海につぐ 水の郷を探すのだろうか
沼とか 湖とか
そこに浮いて白鳥のように生きるのか
いずれにしても 至難だ


海を離れていくカモメは
哀しい
誰もいない海にやってくる人のようだ



自由詩 一羽のカモメ Copyright 杉菜 晃 2006-11-28 12:21:23
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