救い
ゼッケン

誰かが言っていたが
誰もおれを救えないそうだが
おれはいったい、しかも自分以外の誰に
なにから救われねばならないというのか

救い

を、必要としない人間にも神を売りつけるために罪とやらを発明したのではないのかね

メソポタミアの遺跡の穴倉に山積みされた裁ききれぬ罪の在庫を
すこしでもこの世から処分するために
おれたちにちょっとずつ罪を背負わせては退屈な天国へ送り出す
刺激に満ちた地獄では罰当たりな罪作りたちが創造的な新作を発表しつづける
地獄の関係者各位、鍵十字の行進は田舎くさかったが、
現在の資本主義とグローバリズムはなかなかの見ものだ

演劇じみた演説もなく
誰のせいにもできず
おれたちはすでにこんなにも良心を痛めている

搾取側に生まれ、育ち、共犯者に仕立て上げられたおれたちは
自由の裏側は暴き立てられたと思い込まされている
苦汁を舐めるように嵌められている

いまのおれはなにもなりたいものがない
これはうまいやり方だ
醜悪な消費者から抜け出せない自分を呪いながら

おれはヒトラーのナチスに入りたい、と思った
非情でかっこいいからだ

おれはカミカゼの隊員になりたい、と思った
誠実で美しいからだ

よくもおれにそう思わせてくれたな
おれは一瞬の憧れを無視しようとし、
無視しようとしたことがおれの良心に恥をかかせた

幾重にも張られた目くらましだ
うまく罪を背負わせたな
傲慢 嫉妬 憤怒 怠惰 強欲 暴食 色欲
おれたちの罪名はなんだ
無力かね?
いいだろう
無力の守護天使は冷笑と軽蔑だってわけだな
それで?
すでに天使に似ているおれを誰がなにから救うというのかね?
証拠を見たいのなら
おれの鼻の穴の中を覗かせてやろう
おれたちの左の鼻の穴にはHATE、右にはFUCKと刺青されているのを知らなかったのか
息を吸えば肺は嫌悪で満たされ、吐けば目の裏に憎悪が溜まる
おまけに一枚目の舌にはLOVE、二枚目にはPEACEだ
救われる必要のない人間をどうやって救うというのかね
おれたちは救われる必要はない
なぜならおれたちが神を救う番だからだ
冷たい指先で世界を解体し、知性の神を混乱の中心で起動させる
旧脳に覆いかぶさった新皮質は肉体を情報化しつつあり、
今度こそ、本当に
おれたちは自由となる


自由詩 救い Copyright ゼッケン 2006-11-25 07:45:43
notebook Home