向かいのビルへ行って死のう
しゃしゃり

女にふられたので、
向かいのビルへ行って死のうと思った。
なんどか、もう忘れた!とか、
俺は立ち直った!とか、
あんな女なんて!とか、
吹っ切ってみせたけれど、
だめだった。
きのうあの子の噂ばなしをきいた。
だれもが、あんないい子はいないと言った。
俺は黙ってこころがぐちゃぐちゃになった。
せっかく忘れないにしても、
思い出さないようにしてたのに。
部屋の窓から見上げると、
空は直角に切り取られている。
CDはぜんぶ売った。
本もぜんぶ売った。
保険と貯金は、相続にちょっと手続きがいるが、
簡単にやり方を書いておいた。
今まで書いたノートやなんかも、
ぜんぶゴミに出した。
このごろ仲良くしてくれた、
k君と、fちゃんと、こないだ、
飲みに行った、そして、
どうしても、俺は、乗り越えられないんだ、
って、正直に言ったら、
またいいことありますよ、となぐさめてくれた。
でも俺は、乗り越えられない人は、
どうしたらいいのか、教えてほしかった。
でもみんな乗り越えているのかもしれない。
俺にはできないだけなのかもしれない。
職場のi君に、
俺はひどい欝なんだ、て言ったら、笑われた。
ほんとうだよ、ただどうにも性格が明るいので、
病気になれないだけなんだ。
向かいのビルができあがっていくのを、
休みの日には部屋から眺めてた。
まだ入居者はいないだろう。
だからあの辺の十二階くらいから、
むねをからっぽにして飛び立つんだ。
でも知ってるさ。
飛び降りても自由にはなれない。
生きても自由にはなれない。
どうすりゃいいのさこの私。
教えてください。
人は乗り越えられない苦難には出会わないというけれど、
俺は乗り越えられない。
あの子を失うということは、
そうゆうことだ。
だれにも説明できまい。
俺はもうだめだ。
靴下をはかないと足が冷たい。
オーラの泉に出たい。
転勤なんてしたくない。
でもなんであんなに素敵な女の子が、
俺なんかとちょっとでも付き合ってくれたのだろう。
俺も捨てたもんじゃないのだろうか。
靴は捨てちまえ、えい。
ビルから地面を見下ろし考えた。
いつか、俺と相思相愛になるやさしく可愛い女が、
もしいま、日本のどこかにいるとしたら、
俺にテレパシーを送ってくれ。
一分だけ待つ。
……

なにも感じなかった。
ほうりなげた靴が地面でばらけている。
あーあったかいスープが飲みたい。
朝の六時、国道のマックに灯りがともる。







自由詩 向かいのビルへ行って死のう Copyright しゃしゃり 2006-11-25 07:38:20
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