ベッドタウン
佐野みお

今夜この街の二十万のベッドの何割かの上で
愛が倦み、愛が生まれ、愛が壊れる。
ベッドは一つの水準である。
ある部屋のあるベッドに潜り込もうと
住民たちは昼間、さまざまに図り
汗を垂らし、涙を流し
結果として今夜それぞれの理由により
ベッドで眠ることに
成功したり失敗したりしている。

 少女は夕暮れとともに目覚めた。
 コンピューターに向かい
 オンライン・シティーに足を踏み入れる。
 少女を歓迎してくれるのは
 シティーの者たちだけだ。

  夜の重量と戦う老人がいる。
  戦い疲れうつらうつらしかけたころ
  毎日朝はやって来る。
  睡眠薬は本当に効果があるのだろうか。
  終電車が線路を揺らす音が
  遠くかすかに聞こえる。

 昼間外出することを
 少女の両親は快く思わない。
 自分が悪かったのだ
 そう少女は納得している。
 今では隣近所の住人たちも
 少女の存在を忘れかけている。

  始発が線路を揺らすまでの時間を
  老人は計算する。
  あとほんの四時間
  この重たい夜はまた
  なんと短いのだろうか。
  なんとあわただしく
  地球は回るのだろう。

二十万の住民がベッドで
眠ったり眠れなかったりしている。
ベッドは一つの範疇である。
自分の眠るべきベッドが失われたことを
まだ知らない者が
タクシーでこの街に帰ってくる。
それにしても
神々の物語に由来するにしては
星座はやや歪んでいるとはいえないだろうか。


自由詩 ベッドタウン Copyright 佐野みお 2006-11-23 23:37:56
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