祝、人間
山崎 風雅

 俺は一人だった
 親兄弟は俺を見捨て
 友達は卑屈になった俺を疎い
 甲斐性もない俺に付いてくる女はいなかった

 一人繁華街をうろつき
 ぽん引き相手にケンカをしかけ
 街を横切る河原で
 同じように孤独に染まった月を見上げて
 缶ビールを飲みながら煙草を吹かしていた
 涙は砂漠のように枯れていた

 すがるように
 祈るように
 一人で歩いた
 
 愛される場所を探して
 自分の居場所を探して
 ひたすら一人で歩いた

 終電に乗り遅れ
 街灯さえ灯らない土手沿いの道を
 一人慰めの歌を口づさんで
 歩いた
 
 青い月を見て
 歩いた

 滲む星を見て
 歩いた

 冷たい風に吹かれながら
 歩いた

 誰もいない道を
 歩いた

 その頃
 詩なんて書いてなかった
 
 救いは空の向こうにあり
 自分のなかになるなんて思いもしなかった

 左脳には「死」の文字が点滅していた
 
 あの頃
 生きていくことなんてできやしなかった
 ただ、死ねなかっただけだった

 誰も信じてなかった

 俺は震えていた
 恐ろしかった
 
 本当に死ぬしかないと思ったんだ

 誰しもに冬は訪れる
 氷のように固まった心を照らす太陽は
 自分の中にある

 重い扉の向こうには
 また別の自分がいる

 俺は脳神経が痛むほど
 一人で歩いた
 扉を開いた
 
 恐ろしかった
 ものすごく恐ろしかった

 扉の向こうには
 キラキラ輝く世界があった

 楽しいことばかりでもないけれど
 もう、地獄にはいない

 人と人に挟まれて
 人間になった

 嘆くこともあれば
 笑うこともある

 裏切られることもあれば
 信じられることもある

 絶望することもあれば
 希望が見えることもある

 俺は人間だ
 そう、俺は人間だ

 すべり台から降りてくる子供のように
 次から次へと喜びと哀しみが訪れる

 人間だからこれでいい
 がんばってるなんて陳腐な言葉は吐かない
 
 人間だからこれでいい
 泣きたい時には泣かせてもらう

 人間だからこれでいい
 笑うときには思いっきり笑わせてもらう

 

 人間になるだけのことが
 すごく大変なことだったよ



 
 


自由詩 祝、人間 Copyright 山崎 風雅 2006-11-23 01:19:07
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