マフラーは長すぎて
ピクルス


ちいさな掌を
ひとつ結んでは覚えてゆく指あそび
ほんとうなんて要らない
と言い聞かせながら
それは未だ新しい

老いさらばえた両腕は
調和したスープと
子守歌で満たされる
動かない光
あたたかな窓の数だけ
架空の挨拶が交わされる
ごきげんよう
ごきげんよう

薬を飲むの忘れたら
叱られるのが怖くて
初めて嘘をついた
ほんの少しずつ重なって
椋鳥は鳴かなくなった
弱さからか自信のなさからか身勝手さからか
君は知らない

綺麗な石を捜しては
積んでゆく
仕舞いには平衡について考える
不思議ななにかが喚んでいるよ
いつも遠く近く声がする
耳を澄ませると
さみしい
と黙り込む

どこへも帰らない
どこへも帰らない

未だ残っている旋律
拾う事の挑戦
捨てる事の満足
まもる事の

描きかけのカンバスの為に
絵の具が欲しい
緊張と臆病に疲れ
運命の前で愁傷らしく振る舞う絵は
いつまで経っても
家に帰れない

だいすきな匂いは
炊きたてごはん
それを嗅ぎながら
いただきますと祈る
椅子はひとつでも
花を飾り
また
新しい絵を描き始める

かえりたい
早く家に帰りたい




自由詩 マフラーは長すぎて Copyright ピクルス 2006-11-21 14:56:57
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