小さな一人旅
李恵



自尊心をちょうだい。
勇気をちょうだい。
なみならぬ身体能力をちょうだい。



橋で月をみていた、一人で。魚が泳いでた。
月はまるくてほのかに光ってた。私は池に落とされた。


外見で人はみなその人格を判断する。
下等動物のように扱い近づくことさえしない。
遠見の見物。私は物?
人は妬み、陰口を叩く。ありもしないことを言う。

人は外見でその人格を判断する。



価値をちょうだい。
存在理由をちょうだい。
不可解な外見をちょうだい。


型にはまった生活がいやになった高校2年生。
家族で行った情熱の国スペインで私は脱走をした。


ホテル。
玄関から堂々と外へでた。ボーイにはチップをわたし、夜風に当たるとだけ。
両親、姉、弟には何も言わずに。
誰も気づかなかった。なんか、切ない。
ささやかな反抗、抵抗、小さな小さな反抗期。


公園をみつけた。
ホモセクシュアルが今日のお相手を探すために破廉恥な格好で公園を歩いていた。
見るに堪えない姿、新しい世界、これこそ未知の世界。


公園の池をみると子供の頃が蘇える。
父が録画してくれたホームビデオの中には私と姉が花を観察している様子が写されている。
動物と戯れている姿が写されている。普通の子供がするような乱暴で無茶苦茶な怪我がつきものの遊びは一切してこなかった。
それが私の生活。
型にはまった生活。


橋をみつけた。
公園の入り口からちょうど中間地点に位置する大きな池に堂々と架かった橋。
ひょうたんのような形の池はスペインではなんと言うのかな。


何が今自分に必要なのかわからなくなる。
一度前に経験したことのあるようなデジャブ。
幼少期に戻ってしまったような感覚、即視感。

今ここではスペイン語が必要。
今ここでは安全な場所に避難することが必要。





現実を教えて。
世界をみせて。
私を存在させて。




ホモセクシュアルのカップルにぶつかった。池に落ちた。
まるで深海のよう。無心の状態でいればなにごとも恐くないと気づいた。


今ここでは水面に上がることが必要。
今ここでは酸素を補給することが必要。
今ここでは落ち着く心が必要。


死にたいと思っていても人は生きるほうへ進んでく。

望まなくても手に入るものがある。
望まなきゃ手に入らないものがある。
望んでも手にはいらないものがある。







与えられたレールを歩くように
スタンドバイミーみたく線路をただひたすらに歩いて行けばよかった。

橋を渡るのはまだはやすぎたのかもしれない。




水泳を真面目に習っておけばよかった。



散文(批評随筆小説等) 小さな一人旅 Copyright 李恵 2006-11-21 12:01:58
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