朝とオレンジ
船田 仰
呆然とくつばこを見つめてから
オレンジの靴をとりだす
未だにそれはしっかりと
買いかえる気も失せるくらいしっかりとしてる
まいった
嘘の心をもたない少女
そんなのはだれももってないさ、と
唄いながら並木道の上
それはうそのこころじゃないとおもったし
死んだあのひとをみんな見送っていた
ぼくは笑って
さよならするんだ
そして吹けない口笛をふいたつもりになって
得意にさえなって
曲がり角で、ゆらめく
朝をにらんだ
望んでたことじゃないことが
案外にしぶとく
静電気でゆびにまとわりつく塩化ビニルほどにしぶとく
その存在を誇ることも
窓からカラスをながめて
ふと共に鳴いてみたくなったとき
とってもさみしくなるようなことも
新聞にはのったりしない
ぼくはぼくの望むだれかになりたくて
朝をにらんでは
履きつぶせない靴で知った顔をする
カラス、鳴けばいいよ
どっちにしたってぼくらは分かってあげられない
ぼくが死んだってきみが死んだって
きっといつになっても新聞にはのらないんだろう
そしてぼくはオレンジの
オレンジの朝をにらむ
曲がり角や
真っ直ぐなみちや
日が沈む屋上や
そんな弱りきった
ぜんぶの呼吸までずっと
ずっと