漂流
水在らあらあ




?.


一日中ひどかった雨も小降りになって
窓から見る白樺の木は
ここ最近やっと葉を落とし始め
冬時間に変わって
六時にはもう日が暮れてしまうようになった
公園の明かりは白で
それは家の前の通りを照らす街灯のオレンジとは
対照的に
冷たい
小鳥が一羽
冷たく濡れた木の枝に止まっている
窓を開けて
名前を呼ぶ
君の名だ
こうやって君がとおくから
窓辺にやってくるってことは
俺も君の家のあたりを
野良犬にでもなって
うろうろしているのだろう
寒くないの
こっちにきなよ
俺は
さむい
聞こえるか
俺の声が




?.


凍える海の上に投げ出されて
燃え上がって沈んでゆく船を見ている
メインマストがまるで魔女でも燃やしているように軋んで叫ぶ
まわりは同じように投げ出された人々でいっぱいだ
だれもかれも何かに
必死にしがみつこうとしている
必死にしがみついて
どうなるって言うんだ
こうやっておれたちは
日常で溺れていて
浮き上がるためにだれかを見つけて
肩を 頭をおさえて
沈める 沈めあう
片方は溺れて
片方は少しだけ生きる
海の冷たい心臓はさみしがりだから
どうせすべての人々の心臓が凍りつくまで停止している
遠くで
だれかに沈められそうな君が見える
俺を見つけて
振り切って
力いっぱい泳ぎだす
俺の体はもう動かないから
俺は見ている
近づいてくる君を
俺はただ見ている
船が爆発する
君は俺の
肩をつかんで
沈める


  
   そんな風に
   おれたちは出会う




?.


君の名をよぶ
砕けた船尾楼甲板の板切れに仰向けになって
溺れかけていた人々は今はもう静かに浮かんでいる
星が
歌うようだ
君の名を呼ぶ
俺は
君を沈めたのだろうか

君の名を呼ぶ

海が鼓動を始める

君の名を呼ぶ

遠くから救命ボートの光が近づいてくる

俺は

君を

沈めたのか

海の鼓動が俺の背中をたたく

目を閉じて

救命ボートの光を

俺は

見送る

君を

沈めたのか




?.


また雨が強くなり始めた
白樺の木の下にたって俺は
雨を飲もうとしている
俺はずっと漂流している
風は強くなる一方だ
碇は海のそこを引きずられてゆく
柵を越えて入った
真夜中の公園は
明かりも消えて
まるで無人島だ
ここにきちゃいけない
ここにいちゃいけない
でも今夜一晩は
ここで休んだっていい
さっきの小鳥が木の高いところにいる
気がする
名前をよぶ
君が舞い降りる
ここにきちゃいけない
ここにいちゃいけない
でも今夜一晩は
ここで休んだっていい
争わずに
一緒に沈んでいったっていい
手をつないで
離れないように



   そんな風に
   おれたちは出会う
   きっと
   冬の海よりも寒い
   都会の真ん中で









自由詩 漂流 Copyright 水在らあらあ 2006-11-18 03:01:24
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