創書日和「白」  たびだち
逢坂桜


  4歳になる姪っ子が、私のスカートを引っ張った。
  「どうして白い服なの?」
  花婿と花嫁は、紙ふぶきの中、腕を組んで出てくるところだ。
  「えーと・・・」
  きっと外国の習慣だろう。
  いや、日本でもお嫁さんは白無垢だしなぁ。
  「まっしろの服ではじめて、二人の色に染めてくんだ。
   二人のたびだちだよ」
  横にいた叔母がうまく言って、かんらかんらと笑う。
  「たびだち?」
  「これからはじめていくんだよ」
  姪っ子が「ふーん」とうなずく。
  「ありがと、おばちゃん」
  「あたしの時のお付きの人が、教えてくれたんだよ」
  花嫁が投げたブーケを追いかける声に、笑みがこぼれた。

  1ヵ月後、孫娘の花嫁姿を見届けた祖父が、亡くなった。
  棺に移された祖父を、みんなで囲んだ。
  色とりどりの菊に囲まれた祖父は、死装束だった。
  「どこにいくの?」
  姪っ子が、不思議そうに言った。
  「まっしろの服はたびだちなんでしょ?」
  大人たちの注目をよそに、姪っ子は私を見上げている。
  「そうだよ。おじいちゃんは旅立ったの。
   おばあちゃんに会いに行ったんだよ」
  「じゃあ、またあえる?」
  「・・・いつかね」  
  姪っ子の、ちいさくてやわらかい手をにぎった。
  祖父の旅立ちを、曾孫は笑って送った。
                               


自由詩 創書日和「白」  たびだち Copyright 逢坂桜 2006-11-13 20:20:52
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