短い紀行文
光 七清

ある日僕は旅に出た。
みどりの扉をくいっと開けて、とにかく荒野に出てみた。
荒野には、野菜が植えてあった。
大きな果物の木もあったけれど、
なにがなっていたのだかはよくわからなかった。
そもそもどうして果物の木だとおもったのかも、よくわからない。
ともかくそれは、果物の木だった。
僕はりんごが大好きだ。
野菜よりも、百倍すきだという自信もある。

木の前にはありの巣があって、熱心な黒い小さい虫たちが、僕に向かって一斉に頭を下げたてきた。
だから、僕も頭を下げたんだ
礼には礼で、返さないとね
とにかく、簡単に言ってしまうと
ありの巣つきの果物の木と、ありの巣なしの果物の木があった。
奴らはお互いに張り合っていた。
僕が通ると
ありの巣なしの果物の木は、ちょっとかわいらしい流し目をこちらによこした。
ありの巣つきの果物の木は、夜になるまででかけるといった。
せっかくの日曜なのに、こんなところにはいられない様子で。

なんてしゃくに障る話だろう。
だから、果物の木は切り倒すことにした。
手当たり次第に打ちのめしてやったので、
やつらはつぎつぎに動かなくなった。
どしん、どしん、どしん、ずしん、どん
木と、木と、木と、それから電柱が一本。
あとはなんだかわからない。

次にあったのは猫だった。
白い猫で、頭の上の毛が、一筋ベージュで逆立っていた。
くしゃくしゃもつれてかわいらしい猫だなあ。
“おい”というと、“にゃあ”といった。
付いてくるんだろうなあとおもったのに、
次の曲がり角で、奴はあっさりいってしまった。
いったいなにしにきたんだか。
ばかやろうっ、とおもったのだけれども、
許してやることにした。
また会うことも、あるだろうしね。

僕は心が広いんだ。

僕の旅路は長かった。
覚えていられないほど、長かった。
たいした仕事も無かったので、余った時間を有効に使った。
まず、はじめに、スケート靴を買いにいった。
それから、大きなバスケットボールを探したけれども、
パラソルより大きなサイズは、おいていないようだった。
そこで、パラソルを片手にスケートをしながら、
ゴルフに夢中なおじさんたちを追いかけた。

あまった時間は、大きい蜘蛛や小さい蜘蛛をつぶすのにつかった
踏み潰したり、すりつぶしたり、指でぺしゃんとつぶしたり、した
節足動物だからね、ちょっとごわごわして、かすかに殻の弾力を指に感じるんだ。
そのあと一気に、プチっといくの。
その手触りが、大嫌いだ。
だから蜘蛛は足でつぶす。
一匹ずつ、丁寧にね。
天道虫だって蜘蛛だって、死んでしまえばそれだけだけど、
可哀想な蜘蛛もいるし、憎たらしい蜘蛛もいるからね。
まとめてつぶしてやれば、区別する必要も無い。

おなかがすいてきたときには
コンビニで、おにぎりをかった。
たいていのおにぎりは逃げ出して、どぶ川におっこちた。
僕だって馬鹿ではないので、落っこちる前に捕まえて口に詰め込んでやった。
落っこちたのは多分、鮭マヨネーズだったとおもう。

それからドアを開けて、家に帰った。
今日のカーテンは桃色だったけれど
だからって格別、いい夢がみられるわけでもないんだよ。


自由詩 短い紀行文 Copyright 光 七清 2004-03-23 23:01:04
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