砂漠の向こう側
夕凪ここあ

砂漠を
旅する少女
らくだを一匹連れて
小さな子どもの手を引いて
今日はどのくらい歩いたかしら。
夜になると
小さな子どもは泣き出して
本当は
泣いてしまいたい少女
砂の塗れた短い髪を
出来るだけ優しく撫でる
母の面影

母は商人で
町を目指して出たっきり
戻らない
なんてことを
思い出したくはないから
足元のおぼつかない砂地を
しっかりと踏みしめながら
疲れて眠ってしまうまで
踊る
少女の瞳は
深い藍色

町の方向に
旅して
それでも
蜃気楼のように揺れる景色
思い出ばかりが
横切って
歩みを惑わす
目蓋の裏まで
焼きついて
離れない

らくだの影で
休む少女
やわらかい砂の丘の
ずっと向こうで
夕日が沈む
橙に染まる
砂漠の夕暮れは
それはそれは
言いようのないほどの
美しさ、で
何もかもを飲み込んでしまう
それでも
少女の瞳は
深い藍色

夜、
泣き出す子どもに
唄を聴かせる少女
喉が渇いて
裏返る声
で口ずさむ
懐かしい
母から聴いた
子守唄

眠りについた後
風は
少女の目指す方向に吹いて
砂が一斉に後を追う
ぜんぶ
少女の寝てる間に、


自由詩 砂漠の向こう側 Copyright 夕凪ここあ 2006-11-10 00:37:07
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