車窓
セキラボ!
冬
風が商店街の路地で
空から見れば沈殿している
バス停からそれを眺めて
タバコを一服、宙に吐いた
背広を着込むようになってから
時々、神様の音を探して
じっと耳を澄ましている
空は白く晴れている
空は白く晴れている
僕は自転車に乗って
この細い路地を抜けて
君に会いに行く
春の匂いがあたりに満ちていて
鼻腔をすっとくぐっていく
ああ、体に
僕のこの体に
音楽が満ちみちている!
君の甘やいだ曲線に
静かに旋律が沿っている!
土手に出ると
桜が一斉に散っていた
君のおぼろげな全身が目に飛び込む
胸の線に息を呑んだ
君は甘い微笑み
静かに神話になろうとしている
艶やかなくちびるが
そっとはなびらに撞いた
僕は、笑った
ああ、君に、伝えたいことばかりが
この全身を巡っている
君は柔らかな全身に
甘い霧を集めていて
はなびらが君を時々覆うから
君は空を見上げて
その両腕を、大きく広げる
冬
まだ乗りなれないバスの車窓から
世界を流し見てみる
耳を澄ましても
音楽は風化してしまって
聞こえてはこない
君の名前、時々忘れるようになったよ
バスは国道に入り
やがて大きな街に入るから
僕はしばらくの間眼をつむろう
ふと
あまりにもあたたかいので
眼を開く
あたりを見渡すと
乗客が皆、同じ方を見つめている
春
桜が
一斉に咲いている
風が強く疾走り
無数のはなびらが散り舞っている
君の姿が
鮮やかによみがえった
僕はひとつ呼吸をして
バスを降りた
耳を澄ますと
体中に
音楽が鳴り響いている
僕はゆっくりと一歩、歩き始める
この胸の鼓動が
響く限り