ラブソングは最後に聞かせて欲しい
霜天

計算外の出来事が方程式の上を埋めていく。それほどのこと。滑らかに、滑るようにして動いていく景色を、雪のよう、と思ったのは。確かに伝わっていたように思う。

手を合わせて、あるいは重ねて。次第に動けなくなっていく空のことを。雨の後の空のことを、いつまでも想い続けてしまうのは、きっと、残されてしまったからだろうね。


国道が見える。大きな街並みが見える。重心は確かにそこだった、それだけを世界と呼んでいた。左に折れる、大きなカーブに沿って海が見える、空が、続いている。海の方へ、向かってください、潜り込んだ助手席でそれだけを、やっと呟くと。右側の窓が開いて、いつの間にか空っぽになっている。アクセルを踏み込むと、滑らかに世界が動いていく。まだこの手には何かが続いている、それだけの確信はあったのだけれど。きっとまだ開ける窓があって、あなたが飛ぶための準備をしていて。僕はその横で靴紐を結び直して、空色のシャツが揺らめいていて、揺らめいていて。



木漏れ日がやってきて。
薄いグレイの夕暮れが去っていく。
テトラポッドに登って、空を押し上げてみる。
この街は行き止まりだらけだから、いくら振り向いても許される。そう言ったあなたの呼吸の継ぎ目を、狙うように通していく。
滑らかに世界が変わっていく。
雪のよう、と思ったのは。



国道が見える。大きな街並みが見える。スピーカーが何かを呟いている。ラブソングはどうか、最後に聞かせて欲しい。左に大きく折れる、海が、見えてくる。空が続いている、まだ、続いている。助手席に沈み込む、誰かの姿が見える、明日の景色に見える。アクセルを踏み込むと、空が見える。残されてしまった、空だけが見える。


自由詩 ラブソングは最後に聞かせて欲しい Copyright 霜天 2006-11-08 00:35:45
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