きんぎょ
水町綜助

雨滴が窓に流れて

十月の始めの夜

よく揺れる電車

じつはもう雨はやんでいる

急行から乗り換えます

タウン オブ エタニティ ハッピーで

今僕の家は高井戸

巨大な白い煙突

神田川

教会もある


僕が生まれた町は

ラブホテル建ち並び

路地にはファッションヘルス石鹸の香り満ち満ちて

都会を流れるどぶ川には


「ポリース」


ドボーン


「ポリース」


ドボーン


コロンビア

ロシア

きつすぎる香水の香り残して

売春婦跳ぶ

水しぶきと白い泡

その長い金髪やヒョウ柄やピンク色やグリーンやイエローの服が

黒い水の中金魚みたいで

そして僕らは酒に酔った帰り明け方三時半で

橋の欄干から乗り出して指を指してゲラゲラと笑った

橋のたもとには事務所があって

やくざの飼ってるアヒルたち橋の下グワグワ鳴いて羽ばたいて

僕らはさらに笑う

「知っとる?あのアヒル腹んなかにヘロイン詰まっとるらしいよ」

「ちゃうて、チョコだて」

「そらウンコだわ」

「そのまんま渡して取り引きするらしいに」

「そんなんうそだわぜったい」

「不自然だもん」

でも不自然なことなどそのころの僕にはなにもなく

僕にとってはどぶ川の中泳ぐ金魚もきれいに見えた

緑にライトアップされた白いラブホテルはメロンシロップをかけたミルクアイスみた
いに甘そうだったし

腹が立てば吠えればよかったし

太陽と月が重なっても笑顔だった

いやいまでも変わらないか

うん変わらない

でも少しだけ湿度が高くなったかも知れない

あのときは

乾いた笑いが晴れ渡った夜空に上って

こころは乾いて

だからこそぶつけると高く澄んだ綺麗な音がした



ような気がする



(そして、僕らは当時「僕ら」と呼ばれてはいたが本当は「僕」と「僕」と「僕」だった

当たり前といえば当たり前のこと)



各駅停車は止まり

僕は歩く

神田川をのぞけば

浅い流れに何匹もの錦鯉



自由詩 きんぎょ Copyright 水町綜助 2006-11-07 22:08:08
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