取るに足らないノイズ
紫音

しとしとと降り続ける雨垂れが
カノンのようにリズムを刻みながら
網膜を穿ち男達を溶解させていく
ボルトで締め付ける頭蓋の奥に
ナイフでイニシャルを
蝋で消えぬ印章を残す
新聞や雑誌から千鳥足の心を掬い上げ
掴んだはずの手はいつの間にか薄汚れ
フィクションとノンフィクションの境界を漂う
紫煙に霞みゆく魂の音色が
ギリシャ人のパラドクスに飽きた頃
路地に丸々仔犬はただクンクンと呻く
別にルイスキャロルや宮崎駿のコンプレクスが
赤い霧の彼方に包み隠されたとして
コートの下はただのロリータだとして
それでも歓声と共に迎え入れるだけの
擦れた大人ぐらいは演じられる
清潔という名の湖沼の底に
神々の黄昏は沈められ忘れられていく
光り輝く反射光の矢に
本能と羞恥は捨てられていく
北極星を追って
彼女は消えた
月桂樹の痛みに
彼女は消えた
もはや男達は追いかけはしない
荘厳なオーケストラの中に
バスーンの響きはかき消され
大事だったはずのものは
いつしか失くしても気付かれない
万年筆の筆圧に紙は破れ
忘却を止める手立ては失われていく
大掛かりな嘘は切り取られた真実に置換され
0と1の洪水に溺れる
愛しき温もりなき世界の果てに
ワーグナーの足音を聴く


自由詩 取るに足らないノイズ Copyright 紫音 2006-10-31 03:20:08
notebook Home 戻る