さかなのみるゆめ。
夕凪ここあ

君の寝ている隙に
本を開いてしまったよ
手のひらと同じくらいの大きさの
くたびれた表紙
真ん中より後に挟まれた栞
海の色をしている
波の音が聞こえそうで
耳を澄ませば
君の静かな寝息
呼吸のあったかさ

背中にぴったりと鼻を押し付けて
かすかに湿った、てぃーしゃつ
の裾を握ったまま
丸くなって眠る私は

とうめいなやみを沈んで
何かがはじける
めまいのする頭の遥か上の方
足の先から爪先から
あぶくが生まれてく
魚が一匹
お日様に似たうろこに
たいせつを反射して
行ってしまう
ここは
音がなくて
耳が痛い、ね

握りしめた右の手のひらから
海の色の栞がほどけてく

喉が渇いて、る
君の名前を呼ぼうにも
魚の歌声になってる
それは私の名前を呼ぼうとも
空回りして
もう
足の付け根まで
あぶくになってる

音はえいえんになくなって
耳を済ませば
遠くで君の
静かな寝息が聞こえる
気がする


私、
君の夢の狭間を泳いで
私、
もう魚のしっぽ、で


自由詩 さかなのみるゆめ。 Copyright 夕凪ここあ 2006-10-31 00:51:57
notebook Home 戻る