*追想*
知風

ほれ、そこの足元のぺんぺんぐさ
それくらいの砌からここに立っておるでね
ここらならまぁたいていのことは知っておるよ

たまにあんたみたいな
動き回る奴が訪ねてきおって
なにやかにやと尋ねおる

何を探して彷徨うのやら
儂にはとんと見当のつかない話だが
まぁ

老骨の愚痴でよければ
ゆるりと聞いてゆくが良い

最近はめっきり寒うなって
足元の小さい奴らも
すっかり黄色や茶色になってしもうた

ついさっきまでふたばだったのが
儂の居眠りの間にもう花をつけて
そして枯れていく

なんともせせこましい限りじゃないか

あの空き地のあたりに
とんがった白髪あたまが
並んでおるじゃろう

あれは すすきとゆうての
やくざな地上げ屋一族の
成り上がりもんたちじゃよ

お日さんを独り占めにして
私腹を肥やす悪党さ

おまけに溜め込むだけ溜め込んだら
さっさと地下に潜ってしまって
冬神様の取り立てを逃れるんだから

小さい奴らも大した知能犯だよ

前の新月の頃かな
すすきの陰に隠れるように
絹をまとった女たちが現れた

美しい桃色の花を頭につけた
なんばんぎせるたちさ

あいつらの何が気に触るって
自分で土地も耕さないで
化粧ばっかりしてることさ

それでやくざに取り入って
ちゃっかり根っこを吸い上げて
自分ひとりだけ贅沢三昧

葉っぱの衣なんて野暮だと
柔らかい白絹に納まって
お高くとまってやがるのさ

儂は何度か説教してやったさ
自分の根っこで立てない奴は
ろくでなしのあばずれだって

あいつらてんでお構いなしで
涼しい顔して煙草を吹かしておったがね

だけど 古老には分かっていたのさ
あいつらだっていつまでも
美しくはいられない

すぐにやくざに捨てられて
泣きを見るがいいさと
儂は思っておったのだよ

だから驚いた

ある日突然
あいつらは雪が溶ける様に
すっかり消えてしまったのさ

みじめにしおれた花びらも
醜くねじれた枝も残さず
美しい記憶だけ残して

その潔さ
その誇り高さ

あいつらの消えた跡を眺めながら

あの美しくも儚い生き様を
見つめることが出来たこと

そして
それを誰かに語ることが出来ること

それだけでも
この死にぞこないのおいぼれが
死にぞこなってる価値があるって


儂はそう 思ったのじゃよ


自由詩 *追想* Copyright 知風 2006-10-28 20:01:03
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