逆流
葉leaf



西野が平原を歩いていると、前方に小さな小屋が見えた。小屋には東西南北に四つのドアがあった。

西野は南側のドアから入ろうとしたが、小屋の中には入ることができず、そのまま東側のドアから出てしまった。南側のドアは東側のドアに直結していたのである。

南から入ろうとする西野は、東から出て行く自分を目撃した。一方で、東から出て行く西野は、南から入ろうとする自分を目撃した。



「コンビニに行こう」そう思って西野は外出の支度をした。

さて出かけようというとき、西野は「コンビニ」が何であるかを忘れてしまった。それで辞書を引いてコンビニの意味を確認した。

さてコンビニの意味は分かったのだが、今度は「行こう」がどういう意味だか分からなくなってしまった。自分は何をしようとしていたのだろうか。辞書を引いても載っていなかったので、友達に電話して訊いてその意味を確認した。

「コンビニに行こう」西野は再びそう思ったのだが、今度は何で行ったらいいのか分からなくなってしまった。自分は「移動」などという大それたことができるのだろうか。西野は部屋中を歩き回りながら考えた。そして一時間後、自分の足で行けばよいことにやっと気がついた。

さて、そうして西野はようやくコンビニまでたどり着いたのだが、今度は自分がそこで何をすればよいのか分からなくなってしまった。



西野はレストランでハンバーグとビールを頼んだ。

店員はまずビールを持ってきたが、ビールはグラスの半分までしか入っていなかった。そこで西野は店員に文句を言った。すると店員はこう答えた。
「いえ、ビールはグラスいっぱい存在しています。ただ、そのうちの半分が、何物かによって世界に現れるのを阻害されているだけに過ぎません。本当はグラスいっぱい分のビールが存在しているのです。」
西野は、本当は存在しているのなら仕方がないな、と納得した。

店員は次にハンバーグを持ってきたが、ハンバーグも半分しかなかったので、西野は文句を言った。
「いえ、ハンバーグはまるまる一個存在しています。ただ、そのうちの半分が、何物かによって世界に現れるのを阻害されているのです。」
そこで西野はまた納得した。

会計は千円だった。だが西野は五百円玉を一枚出しただけだった。そこで店員は文句を言った。すると西野はこう答えた。
「いえ、五百円玉は二枚存在しています。ただ、そのうちの一枚は、何物かによって世界に現れるのを阻害されているのです。」
店員は店長と相談した。店長は警察を呼んだ。



自由詩 逆流 Copyright 葉leaf 2006-10-28 11:05:06
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