消えた店 
服部 剛

2年前 
中年夫婦で営んでいた 
ふっくら美味しいパン屋さん 
大洪水で流された 

跡地には 
独り身の若旦那わかだんなが一人で開いた 
手打ちの美味しい蕎麦そば屋さん 
人通りが少なくて 
1年持たずに店を閉めた 

数ヶ月前 
上司と食べに行った時 
手間暇かけて運ばれた狸蕎麦を 
お互いのどんぶりから湯気を昇らせ 
「 うまい、うまい 」 
と食べていた 

ある日
散歩でそこを通ると 
ドアノブから垂れ下がる「CLOSE」の看板 
無人の暗い店内に 
ロダンになった若旦那 
テーブルの上に頭を抱えて座っていた 

( 通り過ぎた僕の脳裏に甦るのは
( 開店の日に 
( 店前に立てかけられていた
( 祝いの花々 

今日 
久しぶりにそこを通ると 
とある悪徳セールス会社になっており 
ドアの中 
わざとらしく明るい部屋の受付に 
眼鏡をかけた軽い笑顔の男性が 
姿勢を正して座っていた 





自由詩 消えた店  Copyright 服部 剛 2006-10-27 23:52:19
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