ナナコ他
青色銀河団

*
ナナコ


ナナコ。
霙(みぞれ)落ちる午後の日差し。
聖霊の結晶のきらめき。
その名を呼べば、
ナナコの声、
遠い海の向こう側からやってくる。

ナナコ。
誰もが初めての場所で
誰もが初めての呼吸を、
呼吸をすると、
自分の生まれついた
星の名前すら忘れてしまう。

だから
ナナコ。
行方不明になったお前の声は
いまでも明るい夏の底で
ゆれている。





**
夜明け


雨の日の海に浮かぶぼくの部屋
星の意味に閉ざされたアンテナ
欲望から遠ざかれば遠ざかるほど
沈黙に占領されていく世界
未来は鳥肌たつように
真っ白だったっけ

どうしてそうなのか
どうしてそうなのか
知らないけれど
幼いころ僕が描いた絵は
暗示が暗示のまま
形としてあらわれていた

あれから何年経ったろう
それでもぼくはまだ
水色の思考を持ちながら
そっと夜明けに耳を傾けている





***
群島


寂しいミノフスキーの宇宙を
透明なカラス(それはガラスでできた凍えた烏)
が 堕ちてゆく 真空のなかを
音もたてず 堕ちてゆく
(のを義眼でみつめる)義妹は
バスにゆられる
寂しい群島で ゆれる バス
の吊革は
寂しく ゆれて ゆれて
見上げる夕空は
どすぐろく

義妹よ
ガラスに爪をたて 書きなぐれ
きみの覚悟の結晶を
コトバに殉じる
まぶたのうらの序説を
漆黒の宇宙をとぶ
凍える烏を
赤い空の
ガラスに爪をたて
必死に
書きなぐれ





****
はぐれ子


心から上空にひざまづき
僕は僕の意味にねじれて
弦のようにのびた僕の影は
ひょろひょろと地表を這い
さびれたビルのなかを
真っ黒な煙突の中を
のぼってゆく
                     



                 赤い花を咲かせ醜くねじれた
                 ぼくは

巨大なピアニストの
遠い鎮魂歌を聴く
かなしい虚無の歌を
聴く








(魂をただただともして 透けゆく日々に
(ぼくは
(ひとりの砂漠である

                        


花は眠り
肌透きとおる
蒼き午後の
はぐれ子の




(遠い草笛)









自由詩 ナナコ他 Copyright 青色銀河団 2006-10-21 10:56:09
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