砂丘で蛍を見たあいつ
たりぽん(大理 奔)
紅葉が近づく樗谿は
とうめいなたくさんの蛍が
言葉だけつまった
名前だけの思い出を
夕暮れにかえそうとする
いろだけになってしまう
ぬくもりを失うと
とうめいになってしまう
飛沫が砂を孕む砂丘は
とうめいなたくさんの葡萄が
音楽だけつまった
名前だけの思い出を
北の海に流そうとする
なつかしい海を見下ろす丘は
風車が影で風景を切りながら
まるで楽器のように
経文旗のはためく音で
彼方から呼ぶのです
いろだけになってしまう
そうでしょうか
とうめいになってしまう
そうでしょうか
私という葡萄は
太陽に透かすと濁った赤じゃないですか
風に吹かれると青白く粉までふいて
つぶれたって、しみこんだって
そこに有ったという
匂いまで思い出させて
なのに
とうめいなたくさんの蛍が
言葉だけが詰まった
名前だけのあいつを
いろだけにかえて
どこにもない場所で
彼方から呼ぶのです
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葡萄白書おくるうた