熱移動
吉田ぐんじょう
十月の昼下がり
ガードレールに寄りかかって
ゆっくり喫煙をすると
内側にある熱いものが
とろけるように放出されてゆく
確か理科の時間に習った
高温のものと低温のものを並べると
熱は移動していくって
わたしは白い煙を吐いてしまって
かすれた声で笑う
高温のものが失った熱量は
低温のものが得た熱量と等しい
わたしの熱はどこへ移動したのだろう
わからない
携帯灰皿に吸殻を落とした
乗ってきた自転車にまたがると
サドルがわずかばかり熱くなっていた
それからきちんと角を曲がり
きちんと道路を横断して
冷凍食品を買って帰った
家に着いたときには
みんなとろけてしまっていたけど