熱移動
吉田ぐんじょう


十月の昼下がり
ガードレールに寄りかかって
ゆっくり喫煙をすると
内側にある熱いものが
とろけるように放出されてゆく

確か理科の時間に習った
高温のものと低温のものを並べると
熱は移動していくって
わたしは白い煙を吐いてしまって
かすれた声で笑う
高温のものが失った熱量は
低温のものが得た熱量と等しい

わたしの熱はどこへ移動したのだろう
わからない

携帯灰皿に吸殻を落とした
乗ってきた自転車にまたがると
サドルがわずかばかり熱くなっていた

それからきちんと角を曲がり
きちんと道路を横断して
冷凍食品を買って帰った
家に着いたときには
みんなとろけてしまっていたけど



自由詩 熱移動 Copyright 吉田ぐんじょう 2006-10-13 17:32:30
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