桃泥棒
大覚アキラ

盲目の道化がひとり
ごった返す真昼間の往来を
踊るような足取りで歩いてゆく

それを指差して嘲笑う子どもたち
囃し立てるように
手を叩いて大騒ぎする

皆がそれに気を取られている隙に
店先の桃をふたつ懐に滑り込ませて
足早に立ち去ってゆく女

その女の家では
重い障害を抱えた幼い娘が
腹を空かせて待っているのだ

小太りの果物屋の店主が
桃を盗んだ女に気付いて
大声をあげながらそれを追う

血の気の多い若者が
桃泥棒の女に跳びかかって捕まえると
女に馬乗りになって顔を強かに殴る

果物屋の店主は
もっとやれと喚きながら
自分も女の足を蹴りつける

女の胸元が潰れた桃の汁で濡れて
とっくに気を失っているのに
若者は女を殴り続けていた

随分遅れて警官がやって来て
顔を腫らした桃泥棒の女を
乱暴に引っ立てて行った

いつまで待っても帰ってこない母を
腹を空かせて待っていた娘は
やがてゆっくりと眠りに落ちていった

娘は夢の中で
母と二人で桃を食べていた
それは夢のように甘い桃だった


自由詩 桃泥棒 Copyright 大覚アキラ 2006-10-13 11:38:51
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