砂丘の少年
服部 剛
仕事を終えて入った喫茶店の夕食前
紅茶をすするカップを置いてほお杖をつき
今日という日を振り返るひと時
名も無き群の
無数の足音が響く
駅構内の朝
職場の仲間と
腹を抱えて笑った昼休み
食卓を囲む家族が
「おかえりなさい」
と迎える夜
どの場所にいても
( ピエロの仮面を被ったまま )
私の身の回りにいつも
茫漠と広がっている
砂丘と空の幻
*
( ハートの太陽が昇る闇色のTシャツを来た少年
( 脱いだ上着を肩にかけ
( 砂丘の果てへと歩いてゆく
( 白昼の砂丘
( 少年が歩くほどに下りてくる
( 霞の幕の向こう側
(「少年」を脱いで孵化したひとりの妖精
( 透明の翼を広げ
( 空へと飛翔してゆく
*
ウェイトレスが
お盆の上に湯気を昇らせ
夕食をこちらに運んで来る
この空腹は満たせても
止むことの無い
心の震え
瞳を閉じた暗闇に浮かぶ
妖精に孵化した
君の白い両手の蕾