砂丘の少年
服部 剛

仕事を終えて入った喫茶店の夕食前 
紅茶をすするカップを置いてほお杖をつき 
今日という日を振り返るひと時 

名も無き群の
無数の足音が響く 
駅構内の朝

職場の仲間と 
腹を抱えて笑った昼休み 

食卓を囲む家族が
「おかえりなさい」
と迎える夜 

どの場所にいても 
( ピエロの仮面をかぶったまま ) 
私の身の回りにいつも 
茫漠ぼうばくと広がっている 
砂丘と空の幻


   *


( ハートの太陽が昇る闇色のTシャツを来た少年 
( 脱いだ上着を肩にかけ 
( 砂丘の果てへと歩いてゆく 

( 白昼の砂丘 
( 少年が歩くほどに下りてくる 
( 霞の幕の向こう側
(「少年」を脱いで孵化ふかしたひとりの妖精 
( 透明の翼を広げ 
( 空へと飛翔してゆく 


   *


ウェイトレスが 
お盆の上に湯気を昇らせ 
夕食をこちらに運んで来る 

この空腹は満たせても 
止むことの無い
心の震え 

瞳を閉じた暗闇に浮かぶ 
妖精に孵化した 
君の白い両手のつぼみ

 














自由詩 砂丘の少年 Copyright 服部 剛 2006-10-13 00:27:31
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