裸の大将
杉菜 晃



浴室に腰掛けて身体を洗っていると
虫の声が
地面を敷き詰めるように湧きあがって
ワッショイワッショイ
ジーンリージーンリー
私を神輿にかついでいるつもりらしいのだ
それならこちらも調子を合わせ
タオルに石鹸をつけて身体をこする
ワッショイワッショイ
ジーンリージーンリー
裸の大将を神輿にかつぎ上げているつもりの
虫がバカなのか
その気になっている俺が馬鹿なのか
虫がバカか
俺が馬鹿か
虫がバカか
俺が馬鹿か
虫がバカか
俺が馬鹿か
際限もなく押し問答をしているうちに
それすら神輿をかつぐ虫たちの囃子の中に
飲み込まれていき
湯船につかる頃には
虫の歓声は佳境に入って
私は秋の風に揺れる虫たちの頭の上を
くらくらしながら運ばれて行った


一週間後
浴室に腰掛けているが
虫のすだきは
きれいに片付いてしまっている
すだきどころか
一匹の虫も鳴かない
鳴かないということは
彼らはもうこの世にいないのだ

その虫たちに向かって
虫がバカ なんてことばを
発してしまったことが
不謹慎に思えてくる
私は深まりゆく無声の
寂しい秋を前にして
うな垂れている
俺が馬鹿だったと




自由詩 裸の大将 Copyright 杉菜 晃 2006-10-12 19:25:44
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