表面張力
大覚アキラ

夕方。

昼過ぎから降り続いた雨は思い出したように止み
濡れたアスファルトに朝日のような夕日が射すと、
ちょっとくたびれた世界は
透きとおった群青色と鮮やかなオレンジ色の輝きで覆われる。

湿り気を帯びた少し肌寒い空気の中、
土佐堀通りと四ツ橋筋の交差点のところで
道に迷った阿呆のようにポカンと口を開いて
おれは突っ立っている。

道路沿いの植え込みの深緑の葉っぱのふちの
ギザギザしたところに雨の雫が集まって
今にも落ちそうになっているのを穴が開くほど見つめながら
ただひたすら呪文のように、表面張力、という単語だけを
心の中で反芻し続ける。

表面張力、

表面張力、

表面張力、

そうだ、しがみつけ
しがみついて決して零れ落ちるな、

そうやって祈るように、表面張力、という単語だけを
心の中で反芻し続けている。

きっと今この瞬間、
土佐堀通りと四ツ橋筋の交差点のところで
道に迷った阿呆のようにポカンと口を開いて
突っ立っているおれは
葉っぱのふちで今にも零れ落ちそうになっている雫と同じように
危うい表面張力でこの世界の端にしがみついているのだろう。

背中をちょん、と突付かれたら
音もなく弾けるように世界から溢れてしまって
きっと消えてなくなってしまうから、

だから、
おれは目を閉じて、表面張力、という単語だけを
心の中で反芻し続ける。

そうだ、しがみつけ、
しがみついて踏みとどまれ、

今、この瞬間に。




自由詩 表面張力 Copyright 大覚アキラ 2006-10-12 11:27:14
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