かたかたかたかた
松本 涼
かたかたかたかた
転寝の脇で何かが走っている
呪われてしまったように
僕の目はまるで開かない
僕は転寝ながら
その音を鳴らしているのが
やさしい生き物であったらいいのに
と願う
かたかたかたかた
音は遠ざからない
冷たい場所へと向かう
長い長い列車のようだ
沢山の兵隊の行進のようだ
耳元のその音に僕は怯える
やさしい生き物はきっと
どこかへ連れ去られてしまったに違いない
僕は開かない目の中で
必死に絵を描く
暖かい色は何色
柔らかい風景はどこ
かたかたかたかた
かたかたかたかた
かた
僕は上手く絵を描けない
耳の奥で僕はとっくに眠っている
かたかたかたかた
かたかたかたかた
音を鳴らしているのは僕だ
やさしい生き物はどこへ
連れて行かれたのだろう