きつねつき
吉田ぐんじょう

大きい声を出すと
ずぼんがゆるくなって困る
とお兄ちゃんは言う
あたりまえだ
大きい声を出しても何にもならないと
承知の上でまだ怒鳴るから
そういう羽目になるのだ

お兄ちゃんは
人でも動物でも無く
夜に対して怒鳴る
暗すぎて理不尽だ
と怒鳴る
そのたびに痩せていく

確か
身内に二人ほど
痩せて死んだ人がいたはずだ
その人たちは普通のお墓には入っていない
きつねつき
だったらしいから
一緒のお墓には
入れてもらえなかったんだそうだ

お兄ちゃんの顔色は
一週間でみるみる青ざめた
怒鳴り声も弱弱しくなってきた
普通のずぼんは履けなくなって
専らジャージーを履くようになった
矢張り きつねつき なのかな
お墓に入れないんだろうか

ある日
寒い寒い

お兄ちゃんが震えるから
布団を敷いてやったら
そそくさと潜り込み

あれから二年経つが
一度も顔を見ていない
布団は敷きっぱなしで
時折思い出したように上下している


自由詩 きつねつき Copyright 吉田ぐんじょう 2006-10-11 13:31:03
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