*夏乃夢・ゲノム<無修正版>*
知風

そういつも野にいれば

季節の移り変わりが さぞよく分かろう

などと申されるかもしれない

 

けれど秋は

一時の眩暈のようなもの

縷々たる乙女の絹髪の ほつれた枝毛のようなもの



わたしたちは少し

滅亡びに甘えすぎていて

永遠の寂寞を忘れがちです



生ある者は

毎日を恥ずかしく生きて

負い目を抱えたまま 死んでいかねばならない



秋に想うことは

そんなどうしようもない心の蔭りへの

一瞬の慰めだと わたしは思うのです



それはそうと



   榎の樹冠のかさこその下に

   まるで痰のような なめくじのような

   角突く小生物が見えますか


   そのずんだもちのような塊が

   夏にはムラサキ色の鱗粉を閃かせる

   温帯性広葉樹林の社交界の主役になるのですよ



などと

なぜ人は まるで

己が事のように 憧れ

そのメタモルフォーゼ 語るのでしょう



   蜻蛉をご存知ですか

   あの儚き命 あなたは知っていますか

   なんとも悲しいことじゃないですか


   わたしも最近

   身軽になりまして

   えぇ長かったけど 家内がとうとうね



などと

なぜ人は まるで

己が事のように 哀れみ

その生の爆発 見逃してしまうのでしょうね



畢竟

乙女の髪の ひとウェーブ

それが わたしたちの一生



その波紋の先端で

全ての歴史のバトンを受け

自分のサインを書き加えて



あの紅い爆発のように

旋風に笑いながら

虚空に消えていこうではないですか


自由詩 *夏乃夢・ゲノム<無修正版>* Copyright 知風 2006-10-11 01:35:53
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