石と旅する
吉田ぐんじょう


ひとあし歩くごとに
わたしの身体からは石が落ちます
からからに乾いた石は
薄い色をしています
わたしはそれを
さらさらかちかち と踏みしだき
疲労し続けましょう
名前を忘れるまで
それはとても素敵なことです


川は昨夜の雨で増水しています
洗濯物が揺れています
女の人が
幸福について思索しながら
旦那さんの夕食を作っています


時計が止まったので
今が何時かわかりません
でも構いやしないのです
元々時間なんて
信用していませんから
金属製の腕時計を外して
遠投したつもりだったのですが
遠くどころか
わたしのかかと辺りに
さくっと着地しました


風が吹いてきました
野性的なにおいがしました
鞄が吹き飛ばされたので
わたしは手のひらに石を盛り
それを運ぶことにしたのです
何か持っていないと
不安なのです


眼が見えているうちは
何も終わりません
断続的ではありますが
続いているのです
未だ終わってはいないのです


さらさらかちかち
こんなにも零れ落ちるものを
わたしは何処に隠していたのか知らん








自由詩 石と旅する Copyright 吉田ぐんじょう 2006-10-08 14:49:52
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