海についてのいくつかの小さなお話。
夕凪ここあ
1
海の方から来た少女の持つ砂時計は
浜辺の砂だから耳を澄ませば波の音がする
2
バス停で
来るのを待っていると
潮風がワンピースを揺らす
もうすぐ夏が終わる、
ということを知りたくはないから
裾についた微かな夏の匂いに
ほんの少しだけ安心して
眠る。
目覚める頃には来るはずだった。
3
空色の少女が言う
これは海の色なのよ。
呼吸するたびにあぶくが生まれて
みな海へ還ってく。
見えないくらい遠くの方で
くじらが鳴いている。
空は夕暮れて、
波打ち際で足の先からあぶくになる少女、
これは海の色なのよ。
少女の声と泡立つ波、
と水平線。
4
目覚めると藍色の空と藍色の海
波の音だけが呼吸のように止まない
凪いでしまった夏、
目指した水平線は見えないとこにある、今は。
5
炭酸 砂浜 くじらの鳴き声
ざざ、ざざざ・・・
夕凪 サンダル バス停
くじらの鳴き声 水平線
ざざざ、ざざ・・・
6
波打ち際で迷っていると
空色の少女は行ってしまった、同時に夏も。
あれは月のない夜で
海の底にいるようで。
7
海の方から来た少女、
扉を開ければすぐ海に通じてた
はずの懐かしい夏の日、もう遠い。
8
の本に挟まれた蒼い栞は空のようで海のようで
隙間に小さく光る砂は懐かしい潮の匂い
最後のページには
いつかの少女
の色。