海についてのいくつかの小さなお話。
夕凪ここあ



海の方から来た少女の持つ砂時計は
浜辺の砂だから耳を澄ませば波の音がする




バス停で
来るのを待っていると
潮風がワンピースを揺らす
もうすぐ夏が終わる、
ということを知りたくはないから
裾についた微かな夏の匂いに
ほんの少しだけ安心して
眠る。
目覚める頃には来るはずだった。




空色の少女が言う
これは海の色なのよ。
呼吸するたびにあぶくが生まれて
みな海へ還ってく。
見えないくらい遠くの方で
くじらが鳴いている。
空は夕暮れて、
波打ち際で足の先からあぶくになる少女、
これは海の色なのよ。
少女の声と泡立つ波、
と水平線。




目覚めると藍色の空と藍色の海
波の音だけが呼吸のように止まない
凪いでしまった夏、
目指した水平線は見えないとこにある、今は。




炭酸 砂浜 くじらの鳴き声
ざざ、ざざざ・・・
夕凪 サンダル バス停
くじらの鳴き声 水平線
ざざざ、ざざ・・・




波打ち際で迷っていると
空色の少女は行ってしまった、同時に夏も。
あれは月のない夜で
海の底にいるようで。




海の方から来た少女、
扉を開ければすぐ海に通じてた
はずの懐かしい夏の日、もう遠い。




の本に挟まれた蒼い栞は空のようで海のようで
隙間に小さく光る砂は懐かしい潮の匂い
最後のページには
いつかの少女
  の色。





自由詩 海についてのいくつかの小さなお話。 Copyright 夕凪ここあ 2006-10-06 00:57:24
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