水没ハーモニー
千波 一也



つきの誘いにうみは揺れ
えいえんのわかれが
ちぎられてゆく

みずのかがみに映るのは
浮かびのひかりか
しずみのそこか
こたえをつかめぬまま
円い波だけが
のこされて
こころならずも
こぼれ落ちる笑みに
なつかしさの
染まる
むね


つきへと昇るものたちを
しずめる都を
よみと云う

終わりゆくはじまりも
その
さかさまも
互いの果てを
およげぬかぎりは
しみる涙にほかならない

やがて
乾いてゆけるかなしみに
うるおいは
幾度もゆるされて
なにものも涸れはしない

おぼれることのたやすさに
或いは
閉ざされるがゆえに
こえは
あふれかえり


繊細にうしなわれてゆく
繊細なものたちのため
みずのかがみは
なお
すみわたる

うみと
よみとが
奏でるはざまに




自由詩 水没ハーモニー Copyright 千波 一也 2006-10-05 00:07:38
notebook Home 戻る
この文書は以下の文書グループに登録されています。
【月齢の環】