雨と殺戮
Mélodie

伴わない安寧を
手繰り寄せるように呼吸をする
いつも何処か背中越しに
冬の匂いを感じているのは
私が冬生まれだからだろうか
それとももっと違う何かがあるのか

雨降りの音を追って
傘をまた無くした
メトロに置き忘れられた水色は
必要な誰かの手に渡っただろう
ドラッグストアの店頭に
たかだかワンコインと引き替えで陳列された
水色や赤の中から選んだ
可もなく不可もなく思い入れもなく
だから冷たい私の手はすぐに
忘れてしまうのだろう
何もかも全て

白くて人に褒められることの多い手だけど
何一つ守ることも出来ない
冷酷な私の底を映しているようで
時々笑えてしまうけれど
そんな指先で鍵盤を弾く
呼吸を手繰り寄せては音が鳴る
掻き鳴らしてもっと
私の全てをもっと
こんな手じゃ何も生み出せない
何も選べない
何も守れないこの手じゃきっと
だけど感情は溢れて暴発して
涙が止まらなくなるから
誰か私を殺せばいい
そんな風に思って生きてきたはずなのに
今では私が誰かを殺している
毎日何かを殺している
雨が降る度に幾つも
何色もの傘を何処かに逝かせてしまうように

こんな声でも誰かに届きますか
届くことを望むのか私は
優しすぎる声ばかりが
隣には漂うようになってしまったのに
どうでもいいことのように何度でも
ワンコインを投げ捨てては
何色も雨の中に捨てていく
たくさんの人達も捨てていく

この心に敵うものがあるとしたら
最初に私を捨てたものだけだろう

だけどそれは
考えても
考えても何処にも行き着くことが無いから
私はこうしてあちこちに手を伸ばしては
結局黒白の上に指を滑らせる
音を掻き鳴らす
掻き鳴らす
泣きながら繰り返し同じような音を手繰る
何処が一番最初だったのか
最後は何時足音を立てて訪れるのか
冬の匂いがする空気を探して
呼吸を指先を夜に延ばす
誰かが残したたくさんの痕跡を辿りながら
本当は生きたかった


自由詩 雨と殺戮 Copyright Mélodie 2006-10-04 00:34:00
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