意志
アンテ


少女は部屋の四方の窓を全開にして
綱を握りしめて
鐘を力いっぱい打ち鳴らした
なぜだか判らないけれど
とにかく屋根には鐘があって
そして鳴らさずにはいられなかったのだ

鐘はボワァ〜ンと情けない音をたてた
急に叩き起こされたので
発声練習ができていなかったし
第一 彼女が鐘を鳴らすのは初めてだった

ボワァ〜ンだって!
少女はお腹をかかえて笑った
なんてわたしにお似合いの音色なんでしょう!
笑いすぎて
背中から順に身体がビリビリと破れた
皮を脱ぎ捨てて
彼女はそれを鐘の綱に結びつけた

鐘は必死に彼女を呼び止めようとしたが
名前すら知らないことに気づいた
仕方なく
ヘノミとかキャスベンとか
ドリオーネとか
思いつく限りの名前を列挙してみたけれど
彼女は一度も振り返らずに家を出ていった

ピシャリ
と彼女の背後で
ドアが閉まった

鳥くんはかれこれずっと空を舞っていたので
鐘を合図に
ヘトヘトになって降りていった
ねえそこの鳥みたいな人!
地面から呼ばれて近寄ると
素っ裸の女がいた
彼女のお腹には居心地のよさそうな穴があいていた
鳥くんは身体を丸めて穴に収まった

彼女は鳥くんを連れて歩き出したが
お腹から糸が延びていることにふと気づいた
それは今来た道の方に続いていた
試しに糸を引っ張ってみると
遠くで鐘がゴンゴン鳴った
進めば進むほど
糸の分だけお腹の穴が大きくなっていった
彼女は思案して
長いあいだ思案して
突然にっこりと微笑んで
また歩き出した
鳥くんもそれきりなにも言わなかった

鐘は準備を怠らなかったが
彼女が糸を引くことは二度となかった
風が部屋に吹き込むたび
皮が気持ちよさそうに揺れた
それでも鐘はいつまでも待ちつづけた




自由詩 意志 Copyright アンテ 2003-08-01 16:01:58
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びーだま