純情
水在らあらあ







大好きって
それは響きだ
大好きだなんて
叫ばなきゃ良かった

声に出さずに
叫ばなきゃ良かった
声に出して
叫んでいたら

きっと俺は
ここにはいないし
きっと君も
そこにはいないね


(君は今どこで
 何をしているんだ
 相変わらず
 涼しくてきれいな
 澄ました顔で
 うろうろしているのか
 あんなひどい、と、都会で)


俺は昔住んでた山奥の
秘密基地に来ていて
そこで山ねずみ博士と
純情について話していて

純情っていうのは
さあ 博士
なんだか
銅鑼みたいなもんです

でも一度おもいきりぶったたいたらなくなっちまう
そんな銅鑼です
俺たちあの季節 そんな銅鑼の中にいたんです
その銅鑼の響きの中におれは実は今もいて


(君がその響きの中に同じように
 いてくれたらなんてもう
 思わないぜ
 さみしいけど)


銅鑼を知りませんか博士
そうしたら
チーズを外にほっとくと玉みたく汗かくでしょう
その汗の玉みたいなもんです純情って

いやでもやっぱりそうでもないか
そのチーズの汗だまの張り詰めた感じなんだけど
でもそこには
やっぱり響いていて
君が
響いて 
俺にはそれが痛くって
まだ
痛くって



        だからもう澄ましてないで
        もううろうろもやめて
        ねえそうやって過ぎ去って
        またいつかあおうって
        生きてゆけるわけないじゃないか
        だって純情は銅鑼で
        チーズの汗玉に響き渡る銅鑼で
        ゴートチーズの汗玉に響き渡る銅鑼で
        俺チーズ好きで
        君だって好きで
        こころから好きで
        今でも好きで



あれ博士、ねてるんですか博士、なんだよ、

博士おれ、もう、帰ります、また来ます
こんどチーズ、もってくるから、それから銅鑼も、できたら

じゃあね博士
またね



外に出たら日は落ちかけていて
入り口を丁寧に隠して
歩き出す
街に向かって

途中見たこともないオレンジの
きのこが生えていて
それを手にとって
かじって

しばらく歩いてたら
響きが強くなって
歩いていられなくなって
しゃがんで

夕日が燃やしはじめて
夕日がぜんぶ燃やし始めているのに
体の中が 
冷たい魚で ひしめいて いて
冷たい魚
冷たい魚、
そうさ
それだって
それだっておれの純情だ
君にたいする
いや
それが 俺だ
冷たい魚
冷たい魚を
かじったんだろう
君は
なまで
あの日
猫みたいに
君は
かってに
かじって
すてた
すてた
君を
君の
君のこと
君のこと
君のこと
好きだったんだ
好きなんだ
だから





だから
この純情を
君にあげるよ
いろいろ難しかったこと
言い訳もきかないことをぜんぶ
純情として
君に
あげるから

かじって
猫みたいにでも
かじってそれで

今回は
さあ
食べて
そして

それで

まあ

かぜにでも

ながれろ






自由詩 純情 Copyright 水在らあらあ 2006-10-02 05:42:59
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